農業への煙の利用は古くから行われており、野生動物は火や煙の匂いを恐れ嫌うことから鳥獣害対策、家畜小屋や納屋で害虫駆除、害虫や病原菌の防除に利用されていました。しかしながら、現在の日本では野焼き禁止の場所が多く、煙の消防への通報や煙の匂いへの苦情も多いため、今では煙の農業利用は、ハウス内で農薬を煙状に拡散する化学的燻煙剤の利用が主となっています。
比嘉先生は青空宮殿(比嘉先生の農園)で、残渣を燃やしたり、整流炭を焼く作業を通して、EMと組み合せた煙には、多様な効果があることに気付かれ、「EM 煙霧」を開発されました。その効果としては、病害虫の減少や農作物の生育向上等があるとお話しされています。
EM煙霧の様子
EM煙霧の方法はシンプルで、EM処理した木材チップ等を乾燥させ、火をつけてお香の様に煙を発生さます。木材チップ等に直接火を付けても良いですが、右の写真1の様に網の上にEM処理した木材チップを置いて、その下で火をつけて炙る様にゆっくり焦がす感じでも大丈夫です。ビニールハウス内でEM煙霧を行う時は火の粉が飛んでビニールが燃えない様に気を付けて下さい。比嘉先生によるとEM煙霧は1日2回短時間で実施し、月1回EMグラビトロン炭30gを火元に追加したり、定期的にEMX GOLDを材料にシュッとスプレーすると良いそうです。EM煙霧を行う過程でできる灰はボカシの材料として利用するか、そのまま土壌に施用して利用できるとのことです。
煙の粒子は極めて小さく、動力噴霧機で散布される液体の粒子の大きさが約50ミクロンなのに対し、煙の粒子は0.1〜1ミクロンと非常に小さいので、農作物の葉や病害虫に付着する一方で、粒子が小さいので野菜や果実に汚れが生じません。
さらに、煙は深達拡散性に優れており、粒子の移動拡散が狭い間隙にも及ぶので、例えばビニールハウス内であればハウスの隅々まで、隠れている害虫まで届きます。また、広さに応じて分散してEM煙霧すれば、広い場所でも隅々までよく拡散します。煙霧は水を使用しないので、ハウス内の湿度を必要以上に高めず、病害の発生に影響を与えません。
作業時間で言うと、EM煙霧は材料に火をつけるだけなので、とても簡単で、短時間で実施できるので、日中の農作業に影響が出ません。
比嘉先生は「EM煙霧には、EMの情報(機能)が転写されているので、空間における整流結界効果を強化する。」、「EMの情報は煙に乗せると農薬以上の効果がある。」とお話しされています。EM煙霧の白い煙の主成分は水蒸気(水)と二酸化炭素で、微量のVOC(揮発性有機化合物)、PAH(多環芳香族化合物)、PM(粒子状物質)が含まれていると考えられます。そうすると、EMの情報は、水蒸気(水)に転写されていると考えられますが、微生物が森林火災の煙に乗って運ばれているという研究報告もあることから、EM煙霧の煙の中にEM・微生物が存在する可能性も考えられました。そこで、EM煙霧により落下細菌が増えるのかを確認するための試験を行いました。
試験の様子
試験方法は次の通りです。EM煙霧が発生する場所から水平距離で2m離れた場所に細菌用寒天培地入りシャーレを設置しました(写真2)。コントロール区としてEM煙霧を行う前に10分間落下細菌を採取しました。次にEM煙霧を行い、ハウス内が煙で薄く曇ってからシャーレを置いて10分間落下細菌を採取しました(各2反復)。回収したシャーレをインキュベーター内で37℃, 3日間培養後、細菌数、糸状菌(カビ)数、酵母数を検鏡によりカウントしました。コロニーを形成した菌については、DNAを抽出し、シークエンスした塩基配列から菌の種類を推定しました。
結果及び考察です。EM煙霧を行う前のコントロール区では約8個の細菌と数個の糸状菌が検出されました。EM煙霧区では約50個の細菌が検出されました。コントロール区と比べてEM煙霧区では落下細菌数が約5倍増加しました。糸状菌はコントロール区で数個検出され、酵母はどちらの区でも検出されませんでした。
落下細菌を調べると、ほとんどが芽胞を形成する芽胞菌で、納豆菌としてよく知られているBacillus属及びその仲間の菌でした。
芽胞とは細菌の細胞内で形成される耐久細胞で、特に乾燥や熱に強いのが特徴です。Bacillus属の菌は生育力が強く、有機物をよく分解します。また、有害なカビ(糸状菌)を抑える働きがあるため、堆肥製造、土壌改良、農作物の病害対策等に利用されています。
これらの芽胞菌が、EM処理した材料の中に存在し、煙と共に空中に舞い上がった後に落下したのか、元々、空間中に浮遊していた芽胞菌が煙の水蒸気に捉えられ落下したのかは、今回の試験では判定できませんでした。
空中に浮遊している菌はマイナスに帯電していることが報告されていることから、 EM煙霧により菌が農作物に落下付着すると、活性酸素を抑制したり、電子エネルギーを供給している可能性も推察されます。
現在、EM煙霧は沖縄のサンシャインファームや鎌倉の小泉農園などに導入、活用されています。現在の様子を写真でお見せします。
この季節によく発生するコナジラミ類の発生がほとんどなく、病害も出ず、トマトが元気に育っている。
病害も虫害もなく、とても健全に生育している。
「温室内で煙結界をやるようになって1ヶ月経ちますが、葉物がピカピカです。」とのこと。
「煙の効果、顕著に虫が少ないです。」とのこと。
以上の様に、EM技術を煙に応用することにより、煙を病害虫対策及び植物生長促進に活用できることがわかってきました。煙の粒子の小ささと深達拡散性という特徴を考えると、EM煙霧はEMグラビトン農法と相性がよく、空間の整流結界効果を高めるのにも役立つと考えられます。
2025.8.5 更新