養殖業では水の環境を適切に管理することが重要ですが、魚やエビの成長を促すために餌を多く与えると、排泄物と共に余ったエサが沈殿して水が汚れやすくなります。この水の汚れは、魚やエビが病気になる原因になります。これまでは、病気を防ぐために抗生物質や化学薬品が使われてきましたが、これらは環境に悪影響を与え、養殖される生物やその食品の安全性にも問題を引き起こすものでした。
EM(有用微生物群)は、水の中にいる他の微生物を活性化させて、水の汚れを防ぎます。その結果、養殖池の中のプランクトンが増え、魚やエビが育ちやすい環境が保たれます。さらに、EMは養殖される生物の免疫力(病気に対する抵抗力)を高めるので、病気になりにくくなり、安定して高い収穫量や品質が期待できます。すでに中国の蟹養殖やタイのエビ養殖でEM技術が活用され、良い成果を上げています。EM技術の導入は、環境への負担を減らし、持続可能な養殖を実現するための方法として期待されています。
EMは、乳酸菌や酵母、光合成細菌など、生き物や環境に安全な微生物の集合体です。EMは液体やセラミックス、土団子といった形で使うことができ、薬剤を使わずに養殖場の水質を安全に管理することができます。
EMに含まれる微生物は、水中の有機物を分解することができます。過剰な餌や排泄物などを効果的に発酵分解し、動植物プランクトンの餌に変えることで水質がきれいになり、養殖池の生態系が豊かになります。また、アンモニアや亜硝酸塩、硫化水素といった有害物質の量を減らし、悪臭を抑える効果もあります。養殖池の生態系が整うと藻の過剰な繁殖を防げるので、大腸菌などの病原菌やウイルスの増殖も抑えることができます。
一般的には養殖場では成長を促すための薬や病気を防ぐための抗菌剤および抗生物質が多く使われていますが、これらを過剰に使用すると薬剤耐性菌の発生や水産生物の生体内に薬が残るリスクがあり、また周辺環境や水質の汚染、生態系への悪影響が心配されます。
EMを使って水質を管理することで、養殖される生物が健全に成長し、薬剤の使用を減らすことができます。また、ヘドロの除去や管理コストの削減にも役立ち、持続可能な水産養殖の実現に貢献します。
水産養殖でEMを使うと、水質の改善だけでなく、養殖される生物の健康にも大きなメリットがあります。EMを餌に加えることで、魚やカニ、エビなどの健康を支えるプロバイオティクスとして役立ち、これらの生物が健全に育つのを助けます。
EMを加えた餌や、EMで発酵させた餌を与えると、魚やカニ・エビなどの生体内にいる微生物バランスが整い、腸の機能が向上します。これにより、栄養が効率よく吸収され、成長が促進されるだけでなく、餌の利用効率も良くなります。
さらに、EMは体内の抗酸化力を高め、免疫システムを強化します。これにより、環境のストレスや病気に対する抵抗力が増し、養殖される生物の病気にかかるリスクが減少します。実際の研究では、EMを使うことで魚介類の臭みが減り、旨味や甘みが増して風味が良くなることも確認されています。
従来の養殖では成長促進剤や抗生物質、抗菌剤に頼ることが多かったですが、これをEMのようなプロバイオティクスに切り替えることで、消費者にとって安心で安全な養殖が可能になります。結果として、商品の価値も向上します。
養殖場では、水質管理や病気対策として成長促進剤や抗菌剤、抗生物質が多く使われていますが、環境汚染や生態系への悪影響も心配されています。
特に、タイのようなエビ養殖が盛んな地域では、マングローブ林を切り開いて大規模な養殖が行われています。しかし、病気が広がるたびに大量の抗生物質を使い、それでも効果がなくなると新しいマングローブ林を切り開いて養殖場を移すという環境破壊が問題になっています。(EUでは、薬剤耐性菌への対策としての抗菌剤の規制が強化されており、EUに輸出される水産物にも抗菌剤の使用が禁止されています。)
EMを使うと養殖される生物が健康に育ち、薬剤の使用を減らすことができます。実際に、薬を使わないエビの養殖が行われており、100%養殖池の水を循環させることができたり、ヘドロの除去や水の入れ替え、消毒のための薬剤を減らすことで、管理コストも削減されています。環境を汚さずに持続可能な養殖モデルは、すでに中国の上海蟹やタイ、ベトナム、エクアドルなどのエビ養殖で実践され、良い結果を出しています。
EMを導入することで、生態系を守りながら経済的で安定した養殖が可能になり、持続可能な水産養殖の実現が期待できます。