
今回は1989年にタイで開催の自然農法に関する国際会議において発表された、比嘉教授による基調講演を紹介します。

本講演録「Effective Microorganisms: A Biotechnology for Mankind」は、発表から30年以上経過した今も多くの学術論文で引用されおり、その数は360回にものぼります。
学術論文の分野において、一つの講演録の引用回数としては異例の多さであり、比嘉教授の哲学とEMの革新的な原理が「土壌微生物学」、「環境分野」など様々な分野で現在も大きな影響力を持っていることを示しています。
また、この提言は、現代の環境配慮型農業や持続可能な開発目標(SDGs)における課題を既に捉えており、学術の世界のみならず、私たちにとっても「誰もが安心して暮らせる幸福度の高い社会」作りの指針となっています。
「自然農法の究極の目的は、正しい自然観に基づいた豊かで健康的な食糧を生産することで、人類の生活基盤を確保することです」“The ultimate purpose of Nature Farming is to secure the foundation for human life by producing rich and healthy food based on a correct view of nature.”
比嘉教授は「自然の力を軽視する農が人類に危機をもたらす」という1930年代の警告を紹介した上で、農薬・化学肥料による環境汚染などの深刻化、さらに安全性を重視した有機農業にも限界があることを指摘しています。そして正しい自然観に基づいた豊かで健康な食料を生み出す農業こそが病や貧困、紛争のない社会の基盤になると述べています。
以下の5点の条件は、前述の人類の生活基盤となる、真に持続可能な農業システムが満たすべき要件として挙げられています。
「人々の健康に役立つ優れた食料の生産」
「生産者と消費者双方の経済的・精神的利益」
「誰もが実践でき持続可能であること」
「自然を保全し環境を責任をもって守ること」
「増加する世界人口に対し責任をもって食料を十分に生産すること」
さらにその要件を満たすためには土壌に関する以下の3つ要素が不可欠であると紹介しています。
・地力を高め、植物の養分利用性を高める技術を確立すること。
・土壌が熟練労働者となり、連作を重ねるごとに収穫量を増やす技術を確立すること。
・土壌を汚染せず、土の力を最大限に発揮させ、病虫害を抑制することである。
「自然の力を最大化し、土壌本来の働きを取り戻すことこそ、農業の本質である」“"the principle of Kyusei Nature Farming is to learn from the great power of nature, which is beyond human understanding, and to allow the power of the soil to be fully exhibited by taking good care of the soil."”
比嘉教授は、従来の化学ベースの農業技術や有機農業の延長線では上記の要件は満たせないとし、微生物の働きに着目する事の重要性を説きました。
教授は「物質が老化し、劣化していくのは自然の理ですが、有害物質がより有用な物質に分解されるという再生の理もあります」と述べます。土壌においても「腐敗」を抑え、EMのような「発酵」と「合成」の働きをする微生物を優勢にすることが、土壌の力(再生の理)を引き出す鍵であると述べています。
「科学技術は人類の健康と幸福のために用いられてこそ真に有用である」“It is necessary that research scientists and engineers fully realize that any technology or biotechnology can be truly beneficial to mankind only if it is used to develop and maintain the health and well-being of mankind.”
科学技術は農薬や化学肥料が生産性の向上などに役立った一方で、利益や効率のために乱用され環境破壊や健康被害などの害をもたらしてきました。
比嘉教授は研究者や社会のあり方として、技術の目的と方向性に責任を持ち、人類の幸福のための技術を開発し活用するべきだという強いメッセージを述べています。
この講演録の全文は、以下のリンクよりご覧いただけます。ぜひご覧ください。
Effective Microorganisms: A Biotechnology for Mankind 比嘉照夫
2025年12月17日 更新